雨音色
デザートが運ばれてきた。


フルーツの切り身が、美しく盛り合されている。


「それでは、


これを食べたら少し二人きりでお話しなさってはどうですかね」


牧が幸花の方を見た。


下らないとも言える、無駄な「大人の」計らいである。


「そうですね、


二人とも我々がいるのでは話し辛いようですし」


政治の話、経済の話、法律の話を一通り終わった後である。


二人きりになった後の会話を思うと、身震いがした。


とうとう始まる。


学者特有の「自分の話し」が。


話題は、自分の専攻か、自慢話か。


果たしてどちらだろうか。


皿の真ん中にあるフルーツがりんごだったら専攻、さくらんぼだったら自慢話、


幸花の頭の中では、そんなことがぐるぐると回っていた。


横に座る英雄の横顔を盗み見た。


明らかに満足そうな表情が伺える。


口から漏れ出そうになった溜息を止めるのに、彼女は必死だった。


「確か西洋の庭園があるそうですよ。そこでお話ししてきなさい」


「「はい」」


目の前に運ばれてきたフルーツの盛り合わせのお皿、真ん中にあったのはりんごであった。


右手にフォークを持ち、口に運び入れる物を選ぶ。


どれも同じようで、どれも選びたくなかった。


左手にナイフを持ち上げ、仕方なくりんごを切る。


溜息だけが、彼女の空腹を満たしていた。
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