雨音色
「お嬢様、お嬢様!」


その呼び声に、足早に歩く長い髪の若い女性が振り向いた。


正午のこの辺りは、駅が近い為、昼食を求める人で溢れていた。


「何?タマ」


女は涼しい笑顔で答える。


一方、タマと呼ばれた彼女は、


怒りと困惑がおり混ざった不思議な表情を浮かべ、まくしたてた。


「何?ではございません!


また今日もあんな風にしては、お父様がまたお叱りになりますよ」


不満げな表情を浮かべて叱責する声に、女は満面の笑みで答えた。


「良いのよ。どうせ私は末っ子だし。お姉さま達は良い所に嫁がれているのだから」


タマは、額に汗をにじませ小走りで彼女の前にまわった。


「そんなことはございません。幸花お嬢様にも良い旦那様を・・・」


「タマ!」


突然大声を上げ、彼女は立ち止まった。


タマは両肩を一瞬震わせる。


通行人たちの好奇の目も気にせず、彼女は大声を上げ続けた。


「お願い。お父様には私が説明するわ。だから、今はもう何も言わないで!」


そう叫ぶと、彼女は再び歩き始めた。


その後を、再びタマが息を切らせながら追いかける。


「しかしお嬢様、やはり断るにしてもそれなりの方法が・・・」


タマは先ほどの光景を思い出した。


そして実感する。女が学と富を得ることの恐ろしさを。


「・・・そうね。今日はやりすぎたわ」


幸花は大きなため息をついた。


家で落とされる雷の音が、今にも彼女の耳を劈くようだった。



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