雨音色
突然の申し出に、驚いた彼は危うくも本を数冊落としそうになった。


「そうだ。久々に学生諸君等と関わりたいと思ってな。

別に構わんだろう?藤木君」


牧が片目をぎゅ、と瞑る。


普通、他の教官が担当する授業を代わるということは無い。


それも判例刑法ゼミナールといっても、


ベテランの牧が興味を持つような授業ではなく、


過去の判例を学生と共に検討するという内容だ。


「は、はぁ。確かに構いませんが・・・」


彼は重さに耐えながら、合点はいかないものの、その申し出を承諾した。


「それじゃあ決まりだ。では、授業頑張ってくれたまえ」


牧の突然の申し出に違和感を覚えながら、


彼は講堂への道を急いだ。
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