幸せという病気
「でも兄ちゃんは逃げないだろうよ。今のワシの話から・・・ワシも歳だ、人間の器を見て話をしている。ワシは予言者でもなんでもない、これから起こる事も何もわからない。ただな、いつからか正直に生きてりゃ見なくていい物も見えてくる。それがほんの少し見えちまってきただけだ」


「三途の川を見た話みたいだし・・・まぁなんとなく言ってることはわかるよ・・・でも言っても仕方ない事もあるじゃん」


武は、その話から逃げようとする。


「これはな兄ちゃん・・・神様の、人間を使った豪遊だよ・・・」


茂は根元まで吸いきったタバコと、武の捨てたタバコを拾い、自分の携帯灰皿に入れた。

そして武の頭は、クラッシュしていた。

何の根拠も無い馬鹿みたいな話が、何故か心に突き刺さり、言葉では逃げられても心はとどまったまま逃げ切れなかった――。

それは、武の中にそれをくすぶる爆弾の火種が存在したからだった。

「・・・そんなことより刑事さん。食パン無くて残念だったな」

武がその言葉で精一杯の抵抗をし、何もなかった事にすると、茂は立ち上がる。
「まぁ・・・なんとなくそんな事を思ったんだよ。だからまぁ・・・気にするな」

そのまま武は茂と別れ、家に帰って風呂に入り、一時間程ベッドの上で左右に体を転がして一日を終えた。
しかし、茂の言うまだ人類が誰も知る由も無い、神の豪遊悲劇はそこまで来ていた・・・。

何も知らない人々はいつもと同じように過ごし、遥もその一人だった。


「えっまた??」


遥が優に尋ねると、嬉しそうに優は頷く。

「もういいってぇ〜彼氏とか作る気ないってばぁ」

昼食を食べながら遥と優は教室で話していた。

「紹介したくて紹介、紹介言ってるんじゃないじゃんっ。向こうから言ってくるんだから」

「無視しときなよぉ」

「あっそぉだ。彼氏作る気なくても好きな人は作りたくない?」

「え〜・・・うん、まぁ」
「じゃあ紹介するよっ」

「ハハハッ。だからいいってぇ」

遥は笑ってそう答えながらも、優の押しに気付かぬうちに恋に対して以前より考えるようになっていた。

そして、武と遥二人それぞれの運命の出逢いもまた・・・もうそこまで近づいて来ていた。
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