幸せという病気
「探してるよ?」

「・・・そうすか・・・あっ今どこですか?」

「今、代官山でコーヒー飲んでるけど」


その言葉に竜司は一瞬、呆気にとられ、もう一度聞き返す。

武から同じ答えが返ってくると、何故だと聞いた。


「・・・なんでって・・・別に?・・・」

竜司は、そのいい加減な武の態度に怒りを見せる。

「遥がいないんですよ!?何してんすかぁ!!」

「・・・」

「心配じゃないんすか!?」

それでも武は、平然とした態度で竜司に尋ねた。

「・・・あのさ」

「えぇ!?」

「動物園にいる動物ってさ、ずっと檻の中にいて、外を走り回りたいなぁとかって思わないのかな・・・?」

「はぁ!?」

竜司には、何が何だかわからない。

そして淡々と武が続ける。

「・・・でもやっぱり野性では生きていけないから、仕方がないってそう思ってるのかなぁ」

「・・・」

「・・・夏も冬もいつも同じ場所にいて、楽しそうにみんなが自分を見にやってくるけど、もしかしたら淋しくて悔しくてたまらないのかも知れない・・・どうゆう気持ちでみんなは見てるんだろう・・・笑われてるのかな・・・でも、檻の中にいちゃそれは確認出来ない・・・」

「・・・武さん?・・・」

「鳥だってよ?気持ちよさそうに空飛んでるけどさぁ、あいつらだって落ちれば死ぬんだよな。死に一番近いんだよ本当は。でもそれをあいつらは自分達で知ってる。俺達には綺麗に、気持ち良く飛んでるように見えても、本当の気持ちは怖くて仕方がないかも知れないよな・・・?」

「・・・はい・・・」


「・・・遥がそう言ってた」


「え?」


「小さい頃の話だよ」


「・・・」


「おまえなら来てくれる。わかってくれる。あいつは今そう思ってると思うよ?」


「・・・」


「あいつはおまえに見つけて欲しいんだよ」


「・・・はい」


「一番にさ」




電話を切り、武は溜め息を一つ、空に向けて吐いた。

その直後に感じた軽い頭痛で少しの間目を瞑り、その後ゆっくりと職場へ戻る。

そして竜司は、武の言葉を聞くと、閉園間近の動物園に駆けた。


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