幸せという病気
武達三人の父親は政治家で、忙しく、家にいる事が少なかったが、比較的温厚な人物だった。

そしてその弟は、そんな兄の金を目当てに弱みを握り、武達の父親に脅しをかけていた。

武、遥にとっては叔父にあたる人物。

叔父は兄の賄賂疑惑を餌に、毎日のように家にやってきては金を巻き上げて生活していた。

そんな事が続いた夏のある日、事件は起きた。



その日、叔父の脅迫はエスカレートし、生まれたばかりの香樹を養子にしたいと要望してきた。




「兄貴よ、あんたが裏金ばらまいてるのバラしてもいいのかい?」



夕立が終わり、外はヒグラシが鳴いている。

そんな穏やかな外の風景とは裏腹に、伊崎家では叔父が嫌らしい顔つきで父を脅迫する。



「家族の前だ。馬鹿な話はよせ。香樹を養子になんて出来るわけないだろう」



それに対し、動揺することも無く毅然とした態度で父親は答えた。

叔父が続ける。



「俺はな、あんたのせいで親からも見離されて地獄ん中を這いつくばってきたんだ・・・そんな弟に、三人もいる子供一人くらいくれてもバチ当たんねぇじゃねぇかい?綺麗な嫁さんと娘、傷つけられても嫌だろうに」



叔父がそう言うと、



「ふざけるなよ小僧・・・俺を誰だと思ってる・・・」



家族の前では温厚な父親の顔つきが変わった。

拍車をかけるように叔父はさらに卑しく攻め寄る。



「収賄容疑で捕まりてぇかい?兄貴・・・」



それを聞いた父親は、普段聞かない図太い声で、



「今までは多少の銭もくれてやってたがな、そんなに俺もお人好しじゃないんだよ馬鹿野郎・・・てめぇをいつでも豚箱いれるくらいの事はたやすいんだ、このシャブたれが・・・」



武も遥も父親の今まで見たことの無い姿にぞっとし、叔父もクスリをうっていたせいか顔つきがだんだん変わってきた。



「・・・なめんなよ・・・簡単に捕まってたまるか・・・」



すると、その場をなんとか沈めようと、武達の母親が二人に向かって口を挟む。




「まぁまぁ、お父さんも修三くんも落ち着いて・・・」






その時だった。




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