幸せという病気
「初めて会った時・・・あの日ワシは、人間腐っていた方が生き延びられるのかもしれんと言った」
「そうだっけ?」
「あれは・・・間違いだ」
「・・・」
「まったく逆だよ」
茂がそう言うと、今度は武が語りだした。
「わかってる。だけど答えなんか見つからねぇ・・・幸せ病も、俺たち人間も・・・だから一瞬でも目を離したらやられそうでさぁ・・・結局、心の底ではいつも勝つか負けるかで・・・」
「勝つか負けるかってのは・・・自分にか?」
「いや・・・とりあえず今は俺の場合・・・恋だよ」
「恋?」
「まぁ・・・色々あんだよ、年寄りにはわかんねぇ事情がさ」
「羨ましくもなんともねぇよ」
やがて店を出ると、いつの間にか外は雨に変わっていた。
空を見上げ、近くのコンビニで傘を買った武は、そのまま営業先へと向かう。
そして時折、胸に痛みを感じて立ち止まり、その度にすみれの顔を思い出した。
その鮮明な記憶は、別れの悲しみや後悔を飲み込み、すみれの戻らない笑顔を次々と未来へ突き動かす。
同じ頃、すみれは違う未来を見据えていた。
「みんなぁ~、どんな色を使ってもいいから、今日は好きなように家族の絵を描いてみよぉ~」
すみれのクラスでは、白い画用紙を広げた児童達が、それぞれに真剣な顔で絵に取り組んでいた。
それぞれの机を回り、すみれが子供達の純粋な作品を見ていると、ある児童が徐に質問をした。
「先生っ!普通の顔しか描いちゃダメですかぁ?」
「ん?普通の顔?」