幸せという病気
それに対して武は意味も無く反抗し始めた。


「そんなこと言うけどコタツで寝た方が風邪ひきやすいだろぉよ」

「あのね。お兄ちゃんと違うの。香樹はコタツじゃ寝かせないから大丈夫です」

まるで遥は母親のように話す。
それは公立高校へ通いながら、まだ幼い香樹の世話をし、祖母と二人で家事もこなしているせいだろうか。
やがてコタツをしまうかしまわないかの話をしているうちに、三人は母親の墓に辿り着いた。

三人は香樹を真ん中に、横一列に並んで手を合わす。
一息つき、武が寂しさを紛らわせるかのように遥に話しかけた。

「遥ぁ。そろそろおまえ高三なんだからさぁ、彼氏とか作んないわけ?」

「そんな時間あるわけないじゃんっ!お兄ちゃんがたまには香樹の面倒でもみてくれたらね〜、そんな余裕もあるんだろーけど?あっ、これは嫌味ですからね」

武が少し馬鹿にした様に言うと、微笑みながら遥がそれに答える。そして武はとことん突っかかってきた。

「・・・ちっ・・・妹め・・・ってか面倒みてんじゃん。この剣作ってやったの俺だし。もう大きいんだからさ」

「それ面倒とかじゃないしね・・・たまにはご飯作ったりしてよぉ」

「あ〜もう、わかったわかった」

武は面倒に思い、適当に答える。

そして、桶に入った水を墓にびしゃびしゃとかけて遊んでいる香樹を呼ぶと、香樹は武の呼び掛けに幼い声で返事をした。


「敵を倒しにいこうか」


子供のような笑顔で武がそう言うと、香樹はすぐに水遊びをやめ、気持ちは冒険の旅に切り替わる。

昨日の夜、武は香樹に木の刀を作ってあげた。

それを振り回し、香樹は「早く行こう」と武をせかす。そして遥を放り、武と香樹は草むら相手に遊びに出かけた。

「ちょっとぉ〜遅くなっちゃ駄目だよっ?・・・もう・・・先帰ってるからねぇ〜!」

遥はそう言い、二人が見えなくなると、振り向いてもう一度墓に手を合わせる。

「お母さん・・・香樹あんなに大きくなったよ?」


そして遥は少しだけ微笑み、お祈りをした。
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