幸せという病気

「私、初めて武さん見た時、優しそうな人だなって思った。この前助けられた時、それを肌で感じて。ほらっ男の人が本来持ってる優しさって、わかりにくいから・・・優しい人だってわかっていても態度や言葉で現れないと実感出来ない時がある・・・だから肌で感じるとすごく嬉しいって感じられる・・・武さんは、なんか小手先の優しさじゃなかったってゆーか・・・なんて言うか・・・あんな状態だったからかも知れないけど、なんかね?・・・特別だったの・・・あの、だから・・・ぎゅってされたの、あれ・・・すごいドキってして・・・」




それを聞くと、武は父親が頭に浮かんだ。




それは言葉や態度で表すほど中途半端なモノじゃなく、『守る』という、でっかい覚悟を感じとれという事。

叔父の事件も少し自分の中で決着がつきそうだった――。



その後、会話の中で、武はすみれに家族の事を話す。

父親の事、母親の事――。

そして武はその時、牢屋に居る父親に会いに行こうと決心していた。

店を出ると、武はすみれを家まで送り届け、今日の礼を言う。


「今日はありがとう・・・また今度なんか奢るよ」

「ん~ん。こっちこそありがとぉ。香樹君に勉強教えてあげなきゃ駄目だよっ?お兄ちゃんっ」


二人の距離が少しだけ縮まり、すみれは冗談で切り返した。

やがて武はすみれを見送ると、父親の姿を目線の先に映し覚悟を決めて家へと足を向かわせる。



その日、暗い空にぼんやり赤みがかかっていた。



そして天上に滲んだ怒りは、恐怖感を放ち、地上を睨みつけていた――。 


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