うさ☆びっち


「うあ、・・・あぁああああああぁああああーっ!」


推測でも、わかってしまうと途端に弱くなる。
奴がいくら叫んでもイライラすることなんてない。

それは、俺が。

同じだから、だろうか。


「・・・ケイ」
「・・・あ、ああ、あ・・・あ、」
「ケイ、」


少しの、笑み。
自分でも気持ち悪いくらいに穏やかな声が出る。


「あ、ああああ、あ・・・」
「なぁ、ケイ」
「・・・っ!」
「此処は、そんなに怖いところじゃねーよ」
「や、だ・・・、やだ・・・っ!」
「ケイ、俺を見ろ」
「ぅあ、ああ、ぁ」
「・・・やっちゃん」


そっと、ケイの頭を撫でてやる。


「・・・やっ、ちゃん・・・?」
「・・・そう」
「・・・・・・やっちゃん・・・」
「双子の弟に、そう呼ばれてた。ハヤトだから、やっちゃん」


ケイが、小さな声で何度もやっちゃんと呟いた。

ああ、そうだ。
此処は怖いところじゃねーよ。
だから、安心して。

忘れられない恐怖を、俺も知っているから。

だから、放っておけないのかもしれないけれど。


「・・・やっちゃん!」
「そ、やっちゃん」
「可愛いね、やっちゃん!ね、俺は?俺は?」
「ケイはケイだろ」
「うーん、ケイ・・・うん、そーだねっ!ケイ!」
「うん」


なんて言って、笑ってやる。


「な、・・・もう、怖くないだろ?」
「やっちゃん、怖くないね!」
「怖くねーよ」


元、マフィアのボスだけど。
・・・忘れてる?


「やっちゃんっ!」

・・・まぁそんなこと、どうでもいいか。





なあ、ケイ。

百面相みたいに表情が変わるところとか、子供のような言動とか。
女みてーに綺麗な顔とか、嬉しそうに俺の名前呼ぶ声とか。

俺は、とんでもねー奴と同室になっちまったらしい。


No.541
うるさくて変わり者の、囚人。


その心に抱えたトラウマ。
・・・昔の俺に、似ている。

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