短編集*虹色の1週間

「歌うたーえ~、歌えバンバンバンバンジー」

小林の調子っぱずれな歌声が、明るい校舎にこだまする。
明るい校舎?
小林は暗いところが怖いので、見回るときにいちいち廊下の照明をつけるのだ。
調子を外して歌うのも、わざと。
少しでもオバケが出てきづらい雰囲気を醸し出すための、防衛手段である。

「ホーイホイ♪おさーるさーんだよ~」

小林は歌いながら、校舎の最上階である5階にたどり着いた。
個別レッスンのための小さめの教室が並んでいる階だ。
各教室の窓から懐中電灯で中を照らして、異常の有無を確認しなければならない。

懐中電灯の頼りなげな光が、真っ暗な教室を照らす。
その灯りに浮かび上がる、古いグランドピアノ。
黒く、不気味に光り輝いている。

怖い映画では、
その向こうに、長くて黒い髪の娘が、立ってたりするんだよな。
それで、ピアノが勝手に鳴り出したりさ。

あー!しまった!
またオバケのことを考えてしまった!

「あ~、夏休みぃ~!」

小林が頭の中の音楽データから、「オバケとは縁もユカリもない歌」を何でもいいから引っ張り出して歌おうとしたときだった。


気のせいだろうか。

向かおうとしていた教室から、
ピアノの音が聞こえたような気がして、小林は立ち止まった。




気のせいでは、なかった。

誰もいないはずの教室からピアノの音が、今度ははっきりと聞こえた。




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