ピエロの世界
 少しだけ、蒸し暑くて。
僕はすっと夢から覚める。

さっきまで広がっていた一面の銀世界は嘘のように消えた。
あれは、多分故郷の風景だ。


「はるちゃん・・・。」
隣には、茶髪の女が裸で寝ぼけていた。
・・頭が痛くて、何も思い出せなかった。

僕はこんなところで何をしているのだろう。
「起きるの・・・?」
ここは、おそらくこの茶髪女の部屋。
東京都杉並区高円寺。

少し上から女を見下ろす。
女は上目づかいで僕を見る。
「帰ろうと思ったけど、もうちょっと居させて。」
僕はそう言って、その女の唇にキスをした。
唇と唇が触れ合う感覚というのは、なんとも心地よいものだ。

「いいよ。」
茶髪女はほほ笑んだ。
そうして僕の首筋にキスをする。
「・・はるちゃん。」
彼女は僕の体の上にまたがった。
目の前できれいな形の、小さな乳房がふたつ、揺れている。
「なに。」
僕はそれを茫然と眺めていた。
「はるちゃんって、本当の名前なんていうの。」
「んー・・・キミは。」
僕はそう言って茶髪女の右の乳首を弄ぶ。
「ゆいだよ。」
「唯。」
僕は乳首を弄んでいた手をぱたりとベットに落とした。
ふと視線を手の方向にやると、乱雑に脱ぎ棄てられた洋服。
「僕、やっぱ帰るわ。」
「えっ・・・」
突然起き上った僕に、唯は驚いたようだった。
「まだいてよ・・・。」
「んー、ごめん。」
僕はさっさと服を着て、ギターケースを背負った。
「なんか帰りたくなっちゃった。」
「えー・・・。」
唯は僕の胸にしがみついた。
「ゆーい。」
「やだ。」
僕はため息をついた。
「また来るから。」
「ほんと?」
「うん。」
僕がそう言うと、唯はしぶしぶという感じで手を離した。
「ぜったいね。」
「わかってる。」
僕はそうして唯の家を出た。

大きなギターケースを背負い、まだ眠い目をこすりながら、
朝の中央線に乗って新宿へ向かう。
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