ますかれーど

--心side--

皐月の風が運ぶは

枯れたはずの桜の
香り。


通りすぎる風に

“私”を預けて
飛び去ってしまいたい。

そうしたらどんなに

楽になれる事だろうね。




ーーーーーーーー‥




華のアーケードを通り抜けた先に、銀の取っ手のついた白いドア。



「ふはぁー‥」



ひとつ大きな息を吐く。

よーしっ!!



「ただいーー‥」

「おかえり」



意を決してドアを開けたその時、後ろから低い声がかかった。



「‥っただいま、お父さん♪」



私はくるりと顔を向け、ニッコリと返す。

お父さんのその手には、近所のコンビニの袋。


この人もコンビニとか行くんだーー‥



「客が来てる」



コンビニの袋の中にはお酒が見える。

うちは誰も呑まないから、来てる客は‥



「え゙‥またあの人ですか?」

「あぁ」



あー‥そうですか。

ガチャ‥

リビングのドアを開けると、テレビの前の白いソファに座る2つの影。



「「ただいま」」

「あら。2人揃っておかえりなさい♪」



振り向いた1つの影は、お母さん。

もう1つはーー‥



「よぅ銀崎!」

「やっぱり紫藤先生か‥」



紫藤先生は、私の担任になる前からうちによく来る。

うーん‥多分、私が生まれる前から?


うちの両親とは、昔からの知り合いらしいんだ。



「なんでまた居るの?」

「あ?心配だから」

「何が?」



先生は時々、意味がわからない。

いや?いつもか?



「魅ー!グラスどこだっけ?」

「あ、そこの棚の」

「お母さん!座ってて。私がやるから」



立ち上がろうとしたお母さんを座らせて、私はキッチンへと向かう。



「お父さんも、座っててください」

「あぁ」



何もできないお父さんを追い出し、銀色のトレイに物を並べてゆく。


買ってきたお酒と、牛乳と、ミネラルウォーター。

ここで私は邪魔者になるから、グラスは3つで良い。



「さんきゅ。銀崎」

「先生‥この家じゃ、全員“銀崎”なんだけど」

「あっはっはーっ♪気にすんな」



豪快な笑い声が響く。


まだ真上にある太陽がリビングを射して、お父さんの蒼銀髪をキラキラ光らせた。



「なんだ?」



私に向けられた、
私と同じ蒼い瞳。


キライ。
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