ますかれーど
すぐに、お医者さんが慌ただしく動き出す。

私もお父さんも、みんなでお母さんを呼んだ。


それでも、機械の継続音は鳴りっぱなしで‥。



ついに、お医者さんたちは手を止めた。

下に顔を向けながら、さ。


左手首にはめた時計を見ながら、時間を告げるその声が‥異次元のことのように感じる。



だって、お母さんはこんなにあったかいよ?



ふくよかな看護士さんが、次々とお母さんにつけられていた管や針を取っていく。


そして全てが取り外された時、看護士さんは、お母さんの綺麗なその手を、お腹の上で組ませた。



眠っているみたい。



また、その真っ黒な瞳を見せて、「心」って呼んでくれるような気さえした。



でも、その美しい声を聞くことは‥もう、ない。



まだ温もりの残るお母さんの頬に、そっと触れたお父さんの大きな手は、ハッキリと分かるくらいに震えてた。


そして、形の良い赤い唇に、優しく自分のそれを重ねたお父さん。




その光景が


美しくて

悲しくて

儚くてーー‥



涙を堪えることなんて

出来なくて……





「ーーっく‥」



もう、泣いても良いかな?



「ひいっ‥く」



もう、我慢しなくて、良いかなぁ?



「う‥っぅ」



その時、私の身体をすっぽりと温かく包んでくれた、筋肉質の腕。



「泣け、心っ」



かつての香りなんてなかったけど、煙草くさいけど‥っ

やっぱり、安心する。
昔から借りてた、この胸にーー‥



「ーーっ‥う、っく‥ーー‥‥



うわぁぁぁあぁあぁぁぁんっーーうわぁぁぁあぁあぁあぁあぁーっーーぁぁあぁあぁあっ……」







ーーーーーー‥







神無月。


十六夜の、綺麗な星降る夜でした。



私の

大好きな大好きな

黒い猫は、

両の翼をめいっぱいに広げて

迎えに来た星と共に

遥か空へと旅立って行きました。




たくさんの、綺麗な円い水滴に

歌を乗せるから。


だから、受け取ってください。




高らかに響く歌声も

爆ぜゆく想いも

全部、全部、

届きますように。





今日だけ、今日だけ‥
泣かせてください。





「お母さんーー‥っ」






ーーーーーー‥







心?


ーー‥愛してるよ。







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