ますかれーど
あれから、1週間が経ちました。

お母さんの供養も済んで、少しだけ広くなったこの家。

私はこの1週間、お母さんのベッドで寝てたんだ。だって、お父さんが泣いてしまうんじゃないかと思って。

でも、そんな必要なかった。

お父さんは強い。私も、そう在りたいと思う。

泣いて、泣いて、嘆くのは、もう終わりっ!


お母さんは、笑ってって言ったから。


顔を上げて
前を向いて

歩いて行こう。


この先に、どんなことがあってもーー‥



「じゃ、行ってくるな、心」



大きな手を私の頭に乗せて、同じ蒼い瞳を細めながら笑う。

今日は、出発の日。



「行ってらっしゃい」



私は、今までにないくらいの穏やかな笑顔で見送る。



「何かあったらタクんとこにな?」

「うん」

「あっちに住んでても良いんだぞ?」

「うぅん。この家に、居たいの」



私が首を振ると、お父さんは「そか」って頭をぐちゃぐちゃに撫でた。



「必ず、メールな?」

「ん♪」

「それから‥」

「んもぅ!お父さん!?マネージャーさん待ってるんだよ?」



お父さんは、よく喋るようになった。

それは、お母さんの代わりを努めようとしてるみたい。

ふふ。お父さんは、お父さんなのに‥ね?



「心」

「ん?」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。頑張ってね♪」

「おぅ」



また、2ヶ月くらい帰って来ないんだって。

お仕事だもん。仕方ないよね。


寂しくない。なんて言ったら嘘だけど。

寂しくないよ?

だから、安心して行ってらっしゃい。


大きな背中が黒い車に乗り込んで、それが見えなくなるまで手を振った。


カーディガンだけじゃ寒いくらいの、ひんやりとした秋の空気に、もうコタツを出そうかなぁなんて思ってた。



「おぃ」

「はひぃっ!!」



いきなり後ろから声をかけられて、かなりびっくりしたわけで。



「朝っぱらから変な声だすな。俺が不審者だと思われんだろ」



後ろから声をかける時点で、もう不審者では?
なんて、言えないよ。うん。



「おっはよ!心」

「あ、あぁ‥おはよ」



いつもより早起きなのに、機嫌が良い感じの麗花。雪でも降るんじゃないだろうか?


気持ちの良い秋の蒼い空には、白い雲が1つ、気まぐれにぷかぷかと浮いていた。
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