ますかれーど
「ー‥っ、」



思いっきり平手打ちを受けた私は、反動で右にあった机ごと派手に倒れた。

イタっ‥

血の味がする。しかも、飲める程に流れてる。

結構 深くやったかなーー‥


顔を上げて、殴った女を見上げる。

その時、溢れた血が顎を伝うのがわかった。



「ね、ねぇ‥これヤバいんじゃない?」



私を囲んでいた内の1人が、怯えたように言葉をこぼす。



「あたし、何もしてないからねっ」

「俺もっ」

「ま、待ちなって」



怪我させんのが恐いんなら、最初っから手なんてあげんな。


私は、怒りでもなく憤りなんかでもなく

ただただ、哀れだなぁ‥って思いながら、そのやりとりを見ていた。



「お前ら何してる」



聞こえたのは、聞き慣れた低い低い声。



「ーーっ銀崎!」

「心っっ!!!」



2人とも瞳を大きく見開いて私の元へ駆け寄って来た。



「心、血がーー‥」



ごそごそとティッシュを出して、流れ落ちる雫を拭ってくれた麗花。



「コイツをやったのは誰だ?」



低く響く声。
このおやじの声は、お父さんと同じくらい低いんじゃないかなぁ‥?

なんて。

この状況を他人事みたいに客観視してる自分がいる。



「え‥と、紫藤先生?あのそのーー‥」

「あたしらは‥その」

「別に‥なぁ?」

「おぉ!うん‥」



次々にゴニョゴニョと発言しては語尾が消えていくコイツらに、紫藤のおやじはオーラで威圧する。



「心、大丈夫?」



いつもとても強くて、悪魔の如きオーラを放つ、あの麗花の声が震えてる。

私は、私に伸ばされた麗花の手をポンポンと叩き、ニッコリと笑って見せた。



「先生、私が勝手に倒れただけ。大丈夫だから」



紫藤のおやじは一瞬だけ眉をひそめたが、集まっているギャラリーをぐるっと一通り見回すと、また私に視線を戻した。

そして



「わかった」



そう低く唸ると、今度はまたギャラリーに視線を戻して



「お前ら、散れ!」



と、叫んだ。普段おちゃらけた人の真剣な言葉は、恐い。

みんな、同じ事を思ってると思う。


だからこそ、紫藤のおやじが声を発して間もなく、まるで蜘蛛の子を散らすようにギャラリーは減っていく。

私を殴った張本人も、とても文句がありそうな鋭い視線を残して去っていった。
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