ますかれーど
どれくらい経ったろう?
ぎゅーっと抱きしめられていた私。

冷たかった彼の身体は、次第に温かくなっていた。



「もう、帰らなきゃね」



耳元で聞こえた、少し寂しそうな声。



「うん」



あの人たちが私を心配‥なんてないだろうけど、一応 帰らなくちゃ。



「送るよ」

「ありがと」



歩き始めた私たち。
繋がれた私の右手は、5本の指が全て絡み合って密着していた。


彼のことを何も知らない私。

家まで10分の道のりを、ゆっくりと2人で歩きながら、いろんな話をした。



「銀崎先輩って、下の名前は“心”だよね?」

「うん」

「名前で呼んで良い?」



名前で呼んでもらえる。それは、とても嬉しいこと。



「うん」



私がそれを許すと、彼は照れたように その真っ黒な髪をいじって顔を逸らし、う~っと唸った。

そして‥



「心っ♪」



余裕綽々の、あの妖艶な美しさはどこへやら。

笑顔で私を呼んだ彼は、幼さの残る綺麗な男の子の顔をしていた。



「ん?」

「へへ。なんか照れる」



う‥私も照れる。



「心も、俺を呼んで?」

「え?」

「俺の名前、忘れちゃった?」



覚えてるよ。覚えてるけどーー‥



「必要になったらね」



なんか、恥ずかしいんだもん。

すると彼は、ちょっとふてくされ気味に私の顔を覗き込んだ。



「呼んでくれないの?」



うぅ‥



「呼んでくれないなら、俺も呼ばない」



“心”って呼んでくれる人は少ない。親ですら呼ばないんだもん。

だから、ちょっと寂しさが胸に入ってきたんだ。



「呼ばないから、呼ぶ時は“心太”って呼ぼっ」

「え?しんた?」

「うん。心太」



なんで?
なんでそうなった?



「“心”に“太”でしんたね?」



クスクスと楽しそうに笑う彼。



心‥太?心太ーー‥

ーーはっ!!



「気づいた?」



笑いがこらえきれないのか、繋いでない方の手を口元に当てる彼。



「“ところてん”じゃないかぁ!」

「っぷ。あははははははははははははー‥」



ダムが決壊したようにお腹を手で押さえて笑う彼。

びっくりしたぁ。こんな風にも笑えるんだーー‥

新しい発見に、いつの間にか嬉しさを感じてる自分が居る。そっちの方が、びっくりだ。
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