ますかれーど


月明かりも
星の瞬きも

とてもとても綺麗だと思う。

でも、


私のココロに響くことは‥ない。







ーーーーーーーー‥






大きなガラスの壁におでこをつける。


月明かりが照らすのは、見渡す限りの広いこの庭。



ここは、心地良い。






「眠れねぇの?」



弓なりになっている階段をトントントンとリズム良く降りてきたのは、

この紅澤家の長男。

有名な大学に通う、とても優秀な人。


拓弥さんによく似た綺麗な顔立ち。

拓弥さんよりやや明るい、短めの紅茶色の髪。


麗花と同じようにスラッとしていて、とても背が高い。





「‥居たんだ」



私は視線をまた庭に戻し、呟くように声を出す。



「まぁね。ここ、俺の家だし?」




……確かに。




「蒼さんが帰って来たんだって?」



後ろの白いソファに座りながらたずねるその声は、よく通る低めの音。





「‥うん」

「んで、また避難してきたワケ‥か」

「ーー‥うん」



紅澤家は、居心地が良い。

この人もまた、
私が“私”を作らなくても良い存在。




「なんで私は“銀”なのかなぁ‥」



「……」



「“紅”が良かったな‥」



めいっぱいの笑顔を作って、くるっと後ろに振り向く私。



ーーー‥涙なんて出ない。


出し方なんて忘れた。




忘れた?



違う。






“忘れなければならなかった”んだよ。






お母さんは、私を産んだから、身体が弱くなったんだって。


記憶にある限り、

1度は流産

1度は死産してる。



今お腹の中にいる子は、4人目‥になるのかな。





私の所為で、身体が弱いお母さん。

私の所為で‥生きて産まれてくることが出来なかった兄弟。



だから


せめて



心配かけないように

安心できるように。



1人でだって大丈夫だよとーー‥



いつからか

常に良い子を演じるようになった。






それが私の、


始まりの仮面。




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