ますかれーど
ざわざわと集まる人の波へどんどんと近づいてく私たち。



「麗花ぁ、1人で見に行っといでよー。あの人だかり嫌だよー」

「何言ってんのよ。気にならない訳?」



ちょっと気になるけど‥



「わかった。まずは1人で見に行ってくるわ」



そう言った麗花は、私の腕を放してつかつかと人だかりの中へと入っていった。

クスクス‥

ふわっと後ろから抱きしめられ、耳元で聞こえた笑い声。



「麗花さんって、いつもあんな感じ?意外だったかも」

「んー‥いつもはもっと、クールな気がするんだけどなぁ」



人だかりから離れた所で、麗花が帰ってくるのを待ってた私たち。

するとーー‥



「しーん!!おいでーっ!!!」



麗花のよく通る声が辺りに響いた。


‥その途端、ばっと一斉に私たちの方へと顔を向けた人だかり。

ざわざわしていたそれらがコソコソに変わり、そしてだんだんと散ってゆく。


私の影響力も、大したもんでしょ?

なんて自嘲気味に笑ってみる。



「心?麗花さん呼んでるけど‥」

「あ?あぁ‥なんだろね?」



不思議に思いながらも、2人並んで校門へと近づく。

ギャラリーが減って、見えてきた校門前。


そこには、頭1つ飛び出た紅茶色の髪の毛の男の人が居た。

黒縁の眼鏡をかけて、ギャラリーなんてシカトし慣れてますっ!って顔で本を読んでるその人。



「兄貴。兄貴っ!」



何回か呼びかけた麗花は、それでも気づかないその人に膝蹴りを入れた。



「かはっ!‥っ何すんだよっ!!」



膝蹴りをくらったその人は、お腹を抑えながら耳から何かを抜き取った。



「耳栓とかしてんなよ。シカトかと思って蹴っちゃったじゃないか」



何故か麗花の方がふてくされ気味になってる。



「誰かを待ってる時はいつもしてんのっ!なんかうっせーんだも‥ん……」



顔を上げた玄は、私たちの方を見るなり雰囲気が変わった‥気がする。


いつも優しい光を放つ紅茶色のその瞳は、今はとても鋭く、獲物を一瞬にして貫いてしまいそうな位に恐かった。

そして、その瞳は私を見ていない。

私の隣に立っている彼を、真っ直ぐに射抜いていたんだ。



「心のオトコって、そいつ?」



低く低く響く声。

空気がピリピリと痛くて、時間なんて止まっているような気さえした。
< 61 / 207 >

この作品をシェア

pagetop