【短編】LIVE HOUSE
バーからラストオーダーの声が聞こえて、いつの間にか手の中でくしゃくしゃになってしまったドリンクチケットを、ジンジャーエールと交換してもらった。
口に含むと、自分でも気付かないうちに喉がカラカラに渇いていたのがわかって、ゴクゴクと一気に流し込む。
会場を見渡すと、小さなバーのまわりに数人と、壁際にたまって話をしている数人以外、人はすっかりいなくなっていた。
あたしは、さっきまでは人で埋め尽くされていたステージ前へと、足を進めてみた。
少しだけ見上げるほどの高さのステージ上には、体がすっぽりと収まりそうなほど大きなスピーカーや、よくわからない機材が所狭しと並んでいた。
(ここで、あの人が…)
ステージの左側を見ながら、あたしはベーシストを思い出す。
(2月25日…)
心の中でつぶやく。
(その日にここへ来れば、またあの人に会えるんだ)
自然と口元がほころぶのがわかって、自分のそんな様子がおかしかった。
(あたしらしくないな…)
冷静ぶってつぶやいてみたけれど、胸の高鳴りは抑えられることなく、いっそう楽しい気分になった。
(ハハッ。ジンジャーエールに酔った?)
自分を茶化す。
でも、きっと胸の奥のどこかで感じていたんだと思う。
探していた"何か"を見つけたという予感を。
その予感に、わくわくと胸がうずいていることを。