あたしの仮旦那は兄貴の親友
あたしがトイレから出ると
あいつが冷えた水を
コップに入れて差し出してくれる

「レモン水だよ
口の中がさっぱりすると思うから」

「あ、ありがと」

あたしは受け取ると
ごくっと一口飲んだ

確かに
さっぱりする

微かに香レモンの匂い
後味にすっとくる酸味が
今のあたしにはちょうど良い

どうしてあいつはこんなに優しいんだ

ズルい、ズルすぎるよ

あたしはぽろっと涙がこぼれた

泣くつもりなんてないのに
勝手に涙があふれる

優しさが憎いよ

こんな優しさなんて
今のあたしには必要ないのに

やっぱ
あたし…あいつが嫌いだ

「僕、精一杯頑張るから産んで欲しいよ」

「何をどう頑張るって言うんだ
痛い思いをするのはあたしだ」

あたしはコツンとあいつの胸に額をつけた

零れて行く涙が
あいつのシャツに沁み込んでいく
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