little epoch
want to.

caseー1


ーーーーーーーーーーーーーーーーーcase-1




恋する女の子は恐ろしい、
と加奈子は思った。

高校の上履きの落書きに
「我恋スル乙女成」だとか
「彼一筋」だとか。

(もっともこんなことをやるのは
田舎のズレた流行なのかも
しれないが…。)


「馬鹿馬鹿しい。」

彼女達に聞こえないように
呟いた。

がやがやと騒がしい教室内では
誰も聞き取れないような声で。


「すごいね、アレ。」

そう言いながら
百合が近づいてきた。


「さすがにあそこまでは
出来ないなー」

とけらけら笑った。


百合もいわゆる
『恋する女の子』だが
加奈子の嫌いな分類ではなかった。



実際加奈子も
半年ほど前には恋をしていたが、
今ではときめきの「と」の字すら出てこない。

(その恋は彼がお箸を
ちゃんと持てない、と
昼食時に発覚して以来
急に冷めてしまった。)



「馬鹿馬鹿しい。」


今度は百合に聞こえるように
少し強めて言った。


ん、と彼女は微笑みながら
返事をした。



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