胡蝶蘭
「イツキは?
あたし、あんたの字も気になる。」


「俺?
俺は…。」



誓耶からペンを受け取り、偉槻は誓耶の書いた字の隣にペンを走らせる。



「こんな。」


「どれどれ?」



“偉槻”



…こんな字か。



「画数多いな。」


「“誓耶”には言われたくないな。」


「お互い同じようなもんだな。」



それにしても、こいつも女っぽい名前だな。



誓耶も人のことは言えないが。



「字、覚えとく。」


「俺も。
ふーん、誓耶か。」



最後にぽつりとひとりごちて、偉槻は「誓う」とつぶやいた。



…この字はなんの意味があるんだろう。



誓耶の場合は、兄の名前から取られたものだが、偉槻は?



父親かなんかの名前がこの字を使ってあるんだろうか。



考え初めて、自分でストップをかけた。



詮索は、無し。



「あ、偉槻の家族構成は?
あたし話したのに、あんたのは聞いてない。」



訊いて、失敗したと悟った。



偉槻の顔が、見る見る間に不機嫌になっていった。



「俺のはいいんだよ。」



何がいいんだ。



あたしは話したのに、ずるい。



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