胡蝶蘭
夜、疲れていた彼は家への帰り道にケータイを落としてしまったらしい。



気付いたのは家に帰ってからで、夜も遅かったので探すのは断念した。



どこに落としたのか、見当もつかなかったので、今日バイト先から電話をかけてみた。



そして運よく繋がり、ケータイを返して欲しいのでバイト先までおとなしく持って来い。



「…ってことか?」


「ああ。」



なんだこいつ。



えらそうに。



考えてみると、指定された場所は何気にここから遠い。



拾ってくれてありがとうもないし。



なんなんだよコイツ。



「ってか、アンタ誰だよ。」


「ケータイの持ち主。」


「名前きいてんの。」


「教える筋合いないだろ。
ケータイ返してもらってさよならだ。」



…ふざけてんのか。



普通、ケータイ拾ってもらって礼くらい言うだろ。



なんで初っ端からお高くとまってんだよ。



「なんであんたそんなにえらそうなんだ?」


「……関係ねーだろ。」



なんだ、こいつ。



「あのさ、あたしはあんたにケータイ返す義理ないんだけど。
別にここに置き去って、届けなくてもなんもデメリットないし。」


「チッ。
金か?」


「見くびんな。
誰が金欲しいって言ったよ。」


「じゃあ、何して欲しいんだよ。」



心底面倒くさそうな声。



誓耶は言葉に詰まった。



…別になにもして欲しくないいんだけど。



「ま、いいや。
持ってくから、細かい道教えて?」


「んだよ、じゃあ最初っから素直に持ってこいよ。」



…つくづく可愛げねー。



それは誓耶も言える筋合いではないが。




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