初恋の向こう側


濁った俺の心に反して嫌味のように晴れ渡る空。

日曜日、隣を歩く千尋が楽しげに言った。


「学校の友達に冷やかされちゃったの。佐伯君と一緒にいるところを見たって人がいて。『あんなカッコイイ彼、どこで見つけたのー?』だって」


そんな無邪気な笑顔を見るたびに俺の中に募るもの……それは、鈍い痛みだ。


「あっ 佐伯君、あれだよ! あれが観たいの!」


飛び跳ねながら頭上のポスターを指さす千尋。

“興行収入〇〇億円、〇週連続1位!”

なんて文句を売りに、テレビで繰り返し宣伝が流されているその映画。

千尋があんまり観たいと騒ぐから、出かけてきた今日だったんだけど。

でも、そのサブタイトルを見た俺はやる気のない声を出した。


「あのさ、別のじゃダメなの?」

「えーっ! どうして?」


だって……。

横書きのタイトルの下に小さく書かれた、その言葉。

【偽りの恋】だなんて、悪いけど引いてしまったんだ。

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