ゾンビがくるりと輪を描いた
ゾンビがくるりと輪を描いた
自分は既に死んで居る…随分と前に流行った漫画の一説の様だが、彼は墓石に腰掛けて、腐りかけた両手をじっと見詰めながら、改めてその事を実感した。

若くして死んだ彼の事を思って、両親は眺めの良い高原の閑静な墓地を選び、丁寧に埋葬してくれたのだ。彼はその事を心から感謝した。そして、親孝行出来なかった自分の不甲斐無さを改めて感じていた。

…闇が支配する時刻が終わりを告げ、真新しい朝日が昇る…それと同時に小鳥のさえずり…爽やかな朝の日差しが木陰を通して墓石に乱反射し幻想的な光景を見せた。

生きてこれを見る事が出来たら、どれだけ幸せだったろう…しかし、彼は死んだのだ。この世に強い未練を残したまま…生前の彼は、細身ながらも筋肉質の体で、力仕事に従事する働き若き働き者だった。毎日が楽しかった。体を動かす爽快感が大好きで、仕事終わりに飲む一杯の黒ビールが彼の唯一の楽しみでもあった。

残念ながら恋人と呼ぶべき人は居なかった。が、心の底で密かに思い焦がれる異性は居たが。しかし、内気な性格の彼には、自分からその子に声をかけ、アプローチするなどと言う事は恐れ多くて到底出来る業ではなかった。ただひたすら心の底で彼女の事を思い焦がれる事が精一杯、彼女は彼にとってまさに女神様と言っても良い位の地位に居る人物だった。

そんな彼女が結婚すると言う噂は矢の様な速さで皆に伝わり、当然彼の耳にも入る事と成った。しかも、相手は自分の親しい仕事仲間の一人…彼は荒れた。嗜む程度にしか呑まない酒を浴びるほど呑み、バーの店員を困らせる程泥酔し、一人ふらふらと歩く道路で背後から車にはねられ交通事故。自分が死んだという事の自覚も無く、そのまま彼は帰らぬ人となった。

ぼんやりする記憶の糸を手繰り寄せながら、彼は自分が死ぬまでの経緯を思い浮かべて、大きく溜息をついた。どうしてこの世はこう、旨く行かない物なのであろうか。自分が何をしたと言うのだろう、よほど神様に嫌われたのかあるいは悪魔に好かれたのか、どっちにしても彼は蘇ってしまった。これはどうしようもない事実で有る。

溜息ばかりの心持でしょんぼりと墓石に腰掛けてちょうど良い高さの十字架で頬杖を付き、これからどうするかをのんびりと思案した。

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