in the dark†短編†
「なに見とれてんの?」

からかうように笑って、彼は私を立たせた。

「ほい。ボーとしてないで行くぞ」

「い、行くってどこに!?」

私は焦って周りを見渡した。

辺りは真っ暗で何も見えない。

ただ私たちのいる場所だけが、スポットライトが当たったみたいに白く浮き上がっていた。

「ねえ」

改めて、自分の透けた身体を見下ろす。

私の腕を掴む彼も、同じように透けていた。

「…もしかして、私」

目を焼く車のライト。

タイヤの滑る音。

身体から血の気が引き、鼓動が早まった。

…まさか、まさか。

何度か唾を飲み込んで、ようやく彼に尋ねた。

「私、死んだの?」




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