いつか、桜の下で…

―翌日。


「水上。今日のスケジュールだが…」


「今日のスケジュールは……あ、ありません!」

「はぁ?」

「だ、だから…ないんです…」


菜緒は、精一杯の勇気を振り絞って、健一に刃向かった。

一方、健一はというと、いつもよりも眉間にしわが寄っていて、恐さが増している。

「水上」

さっきまで聴こえていたキーボードの音は消え、緊迫した雰囲気に変わる。

「…は、はい…」


出すぎた真似だったのかと、菜緒は思った。

けれど、健一は肩の力を抜いて、

「お前に心配されるとはな」

微妙に微笑んだ。

それは、二年間近くにいても、一度も見たことがない表情だった。

「水上」


「は、はい!」

「珈琲飲むか?」

「は、はい!…はぇ?」


健一から、滅多にない一服の誘いに菜緒は、驚いていた。

「ブラックでいいか?」

「あ…はい」


< 144 / 162 >

この作品をシェア

pagetop