キミが刀を紅くした

黒い狂犬の手綱


 夜帝、鬼神、遊女たち。

 消して終わる事のない不の連鎖が続いているとしたら、それは確実に鬼神のせいだと言える。にわかな支配者、遊女の心を捉えて離さないその存在事態が、罪だ。



「沖田、主から言付けだ」


「うわっ、服部の兄さんじゃないか。びっくりした。いつからそこにいたんです? やだなあ」


「“ご苦労様”」



 俺が言付けを伝えると先程まで下げていた眉がもとに戻った。一週間前に夜帝にやられたと言う腕をさすりながら、沖田は訝しげに首を傾ける。疑問があるらしい。



「俺は夜帝も鬼神も倒しちゃないですよ。遊女が助け出されたあの日だって、結局夜帝は逃げたらしいし、俺は現場にも行ってない」



 なのに何故自分は“ご苦労様”を言われるのか。沖田は言葉を続けなかったが、言いたい事はきっとそう言う事に違いない。

 だが俺は主ではないからその疑問には答えられない。首を降ると沖田はそれを理解してくれたらしくため息とともに軽く項垂れた。



「服部の兄さん、例の事件の始終はちゃんと聞きましたか?」


「いや」


「俺は瀬川の兄さんから聞いたんですが、まあ凄かった。聞いて凄いんだから実際はもっと凄かったんでしょうね。聞きますか?」


「いらない」


「そう。まあ聞きたくなったら瀬川の兄さんを訪ねると良い。大和屋の旦那と吉原の旦那は教えてくれませんから。大人だからかな」



 沖田はそう言うと、思い出したように俺を引き止めて一つの書き物を取り出した。見た感じは主が公的職務でよく使うものだ。重々しいその通達は沖田ではなく新撰組全体に送られてきたらしい。

 しかも、切り刻まれて。



「あの人に、一応受け取ったと伝えてください。これは新撰組としての返答です。中は読み取れないんで伺いを立てさせます、と」


「承知した」


「それと警護も。犯人探しはうちでやっときますから。どうせまた京に来てらっしゃるんでしょ」


「――無礼者。口を慎め」



 俺はそう言い捨てて頓所を出て行った。俺の仕事は沖田に言葉を伝えるだけだったから。


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