キミが刀を紅くした

「掃除があるんだね」


「……はい」


「なら、椿の都合の良い日に島原に来てくれない? 絹松には伝えておくから。俺は椿と話がしたいんだ。もっと沢山。だから時間が空いたら俺を訪ねて来て。お願い」


「――私は」


「椿、お願い」



 私が返事をしないのに気付いて、彼は静かに去って行った。私は彼が座っていた所に腰を下ろして、両手で頭を抱える。


 ふと気付いた事がある。

 私は誰かに助けてもらわなければ生きていけないのに、一人になった今、誰かに助けてもらえばその回りの人に殺されるんじゃないかと怯えている。つまりどうしたらいいのか検討もつかない。私はどうすればいいんだ。

 この巡る思考を変えない限り私の目先に幸せはない。幸せになるのはそもそも罪なのか。家を与えられた。だけど殺されると半助さんに言われた。少年が私を探してくれた。だけど私は彼の家族が怖くて仕方ない。あぁ。疎ましい。

 ――もし私の、



「この、声が」



 なければ。



「この姿、が」



 なければ。



「この、そん、ざいが」



 私は半ば泣きそうになりながら半助さんにもらった小刀の鞘を抜いた。この刀で私は自分の首をかっ切ればいいのではないだろうかと心が誰かに問いかけていた。答えてくれる人はいない。けれど否定する人もいない。
 私は静かに喉に刃を突き立てた。


 恐怖が心臓から生まれて全身を駆け巡っていく。切っ先で喉をつつく事しかしていないのに私の震えは止まらない。私はもう幼いながらに知ってしまっているのだ。自ら命を絶つという事がどういう事かを。


 残念ながら私には命を絶っても復讐を誓ってくれる伴侶はいない。両親も昔に死んでしまった。友達もいなければ仲間もいない。私が死んで苦しむのは私だけじゃないか。

 だけど涙は出なかった。心のどこかではそれを否定していたからだ。何を否定しようが拒否しようが、あの少年は私を探して来てくれた。半助さんは私を助けたいと言ってくれたじゃないか。だから一人では、ない。

 なのに私は死にたがっている。



「おかあさん」



 貴方だけが私の味方だった。


 私は小刀を落として地面に崩れ落ちた。涙で世界が潤んでいる。誰か助けて。いっそのこと誰か殺してくれと願いながら私は目を閉じた。

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