キミが刀を紅くした

「ごめん」



 吉原との勝負は着いた。当然ながら俺の勝ちだ。徹夜だと言うのによく腕が動いたものである、と自分を誉めてやりたかった。

 吉原を殺さない代わりに、今回の件は不問とする。それが俺と番犬が決めた他言無用の約束だ。

 そして白昼の今。沢田操に情報を流して俺をタダ働きさせた村崎が、俺の睡眠時間を削って謝罪に来ている。俺は眠いと言うのに。



「華宮さんに聞いたぞ。露子さんを島原から出してくれたんだろ」


「村崎」


「何だ?」


「あんまり言うなよ。西崎露子は世間的に行方不明になったんだ。生きてると知れちゃ、要らねぇ疑いが掛けられちまうだろうが」



 あの反幕、元亭主のせいで。

 沢田と露子は決して結ばれる事はない。露子の西崎と言う苗字は消せないし消したいのなら命ごと消す他はない。それはどうしようもない、仕方のない事であった。

 だが。



「それに、俺、眠てぇんだ」


「失礼します大和屋の旦那。ちょいとお話が聞きてぇんですが今でも構いやしませんかね?」


「あぁ……もう、何だよ沖田」


「あれ、瀬川の兄さん。それにもう一方……珍しい。先客がお二人もいらっしゃるんですか」


「珍しいとは何だ」


「いやあ、まあ商売繁盛は良い事じゃないですか。そんで俺の聞きたいって事なんですがね」


「早く言え」


「近くでまた厄介な事件が起きましてねぇ。西崎龍之介って旦那の事、ご存知ないかなあって」



 知らない、と俺が言うと村崎も俺に同調した。そして奥にいた女が、静かに呟いた。蚊の無く様な声であるが確かに聞こえた。



「知りません」


「まあ参考程度にもなりゃしない意見をどうも。そんで奥の方、失礼ですけどお名前は?」


「……沢田です。沢田露子」


「西崎の妻と同じ名前ですね。そんな偶然はよくある事ですが」



 じゃあ、と去っていく沖田を見送りながら俺と村崎は顔を見合わせる。そして沢田露子は……

 西崎露子は笑顔を浮かべた。



「俺は寝る。後は頼むぜ村崎」


(01:鍛冶屋の困り事 終)


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