愛と云う鎖
マリーはその大きな掌を素直に受け止め、父からまた月へと視線を移した。


「お父様、明日は満月ですわ」


自分を撫でていた手がピタと止まる。


「明日は紅い月になる…」


いつもと違うその声音に異変を感じ、少女は顔を上げた。


「マリー、お前に話さねばならない事がある…」


父の自分を見る瞳は、彼女が幼い頃母を無くした時に見たそれと同じで、少女はこれから話す事が相応の悲しみを負う事になる話しだと予感した。


「お前の母は闇に棲む者であった。しかし、闇の者とは思えない程に清らかで気品があり美しかった。彼女は月が紅く光る時にふと私の前に現れ、この世界で起こった事や食べ物の事などを話したがった…」


マリーは幼い頃の記憶の中の母を思い出し微笑んだ。マリーの中の母は、何にでも興味を示す面白味のある母だったので、父の言っている母が容易に想像出来たのだ。父が最初に語った『闇に棲む者』という言葉など母を思い出している今、彼女にとって殆ど無いように等しい紡ぎだった。


男の口がまた静かに動き始める。

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