愛と云う鎖
マリーの中の母は、優しく可憐でいつも穏やかな顔で娘を見守って居た。


マリーには、そんな母が魔族だったとはにわかに信じ難い真実だった。


驚くマリーの隣で父王はまた静かに語り始めた。


「彼等は彼女を闇の世界に戻そうとした。しかし、彼女は既に私との小さな光をその腹に宿していた。彼等はそれに気付くと二度と魔界に戻らぬ事を条件にし、彼女をこの世界に置き去った。私は追放で免れたことに疑問が沸いたが素直にこれから始まる幸せに喜んだ。彼女も同じように喜んでいた…」


マリーは父王の口振りから、この話しがハッピーエンドで終わらないのを悟った。


「式を迎え、順調に事が運び終盤を迎えた頃にそれは聞こえた。その声は、周りの群衆には聞こえず私達二人の耳にしか入らなかった。私達はお互い目を合わせ声の主を探したが、結局は分からなかった。その声の主は、こう告げたのだ…ーーー」


少女は、その先の父の言葉を聞き、静かに左の頬に悲しみの雫を垂らした。


語り終えた男の顔にも苦しみの色は見てとれた。


月夜に照らされる二人にとって、それは辛く残酷な決断だったのだ。



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