Sin(私と彼の罪)



「シノ、よく食べるようになったね」



そう言われて初めて気付く。


久しぶりに同僚のカナミと食事に来ていた。
昼食時ということで、店内は賑わっている。

私は自分の目の前のパスタをみて「そうかも」と呟いた。



「前は半分くらい食べてもういいや、って言ってたのに。よかったわ、ちゃんと食べれるようになって」



そして彼女は自分の口にくるくると綺麗に巻かれた赤いパスタを行儀よく含んだ。


アパレル系の就職に決まったカナミは私よりも2歳年下だけど、まるで彼女は私の姉のような口調である。

ここまで親密になるのに、年の差というのは大した問題ではなかった。

そのさっぱりとした性格に私が好感を抱いているのは言うまでもない。




「最近、顔色もいいけど、なにかいいことでもあった?」


「いいことなんてないよ。変わらない毎日」



私は最後の一口を飲み込むと、苦笑いで答えた。

手もとのナプキンで口を拭うと、カナミは不思議そうに声を上げる。



「そうかなあ。シノ、少しバイト休んだじゃない?その前とはなんか違うと思うのよ、食欲だけじゃなくて」


「へえ、たとえば?」




店長も言っていたけど、私は休暇をとっていたらしい。

その間、何をしていたとか印象に残るようなことはないのだけれど。
どうせ私のことだ。

特に何もしていないからだろうけど。


彼女は私の何が変わったというのだろう。




「たとえばって言われても…そうね、雰囲気かな」

「雰囲気?」

「うん、ちょっと明るくなった…?」


思わず笑ってしまった。
私が、明るい?

こんな根暗な人間の、どこが。



「え、私いま明るい?」


そう聞くと、カナミもくすりと笑った。
彼女だって私の性格はわかっている。


「ええと、明るいっていうか…以前のほうがシノ、近寄りがたいカンジだったかな」

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