月の恋人




「芹沢のおじさんとこに、行く。」





ひとこと、ひとこと、

確かめるようにそう言って

あたしと翔くんをまっすぐに見た涼の瞳は


決意を宿す代わりに

すべてを、拒絶しているようだった。






質問も、反論も、意見も。







―――… 涼? 何を、言ってるの?









そんな目を見たかったんじゃないよ。

そんな答えを聞きたかったんじゃない。




なのに


どうして、こうなってしまったんだろう。





「…… 翔、…陽菜のこと、よろしくな。」




そう、言い残してあたし達を通り過ぎていった涼を


どうして、引き止めて、

問い詰められなかったんだろう。




あたりは、まだ明るい

昼間のはずなのに

蒸し暑い、

真夏の午後のはずなのに




あたしの目には暗闇

背中には、冷たい汗しか感じられなかった。






―――… なにも、わからない。






涼の去ったあとの空間には

ただ、空しく


蝉の声だけが響いていた。








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