月の恋人




陽菜ちゃんの家を出た俺は、家には帰らず、タケルのマンションに居候していた。

一度だけ、荷物を取りに家に戻ったが、話合いは平行線に終わった。






―――…



『バンドだと!?“音楽で食ってく”なんて夢みたいな事を言うんじゃない!お前はまだ中学生なんだ!』


『そうよ、音楽がやりたかったら、大学へ入ってから、改めてやればいいじゃない。とりあえず高校に入ったら軽音部もあるんだし…

 大体、そんな訳のわからない子達と一緒にいるなんて、お母さん許しませんよ。』






両親の頑なな反応は予想していたとはいえ、素直に話した俺も俺だ。




“高校生になってから”

“大学に入ったら”


―…でも、そこにタケルとジョージはいない。




“音楽はいつでも出来る”


だけど―…いま俺の中から溢れてくる音楽は、きっと今しか奏でられない。




1年後は1年後の

10年後は10年後の曲しか生み出せない。


演奏だって、同じことだ。


音楽(プロダクツ)は全て―…、自分達そのもの、だから。





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