不器用男子
 前が曇っててよく見えない。

 千隼の顔は恥ずかしくて見れない。


「もうね、千隼のこと考えると苦しくて…すっきりしたいの。千隼は私のことなんか眼中にないと思うけど、私はいつも目で追ってた。」


「…」


「好きってよくわかんないけど、こんな気持ち初めてで…これ以上の気持ちもないかもしれない。 心が教えてくれたよ? それが好きなんだって…。」


 恥ずかしい言葉を言ってるのかもしてない。


 でも、それが私の思うことなんだもん。


 返事…。


 怖いけど、聞きたいよ。


 ギュッと目を瞑って期待と不安に我慢する。


 返ってきたのは…


 千隼の大きな手が私の頭にのってポンポンと二回なでられた。


 …なに…?


  予想してなかった。


 慰め? 同情? 何?


 千隼の顔が見れないよ…。


 だいぶ日も落ちてきて街灯がつき始めた。


 どうしていいかわからない。


「…千隼…迫っちゃいけないのかもしれないけど…返事を頂戴…よ…」


 涙がどんどんにじんでくる。


「…OKしたつもりだったんだけど…。」

 千隼の声に耳を傾けて返ってきた言葉…。


 疑いもしらず、顔をあげた。


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