戯れ人共の奇談書

暮れる陽、ぬるい空気。時たまそよぐ風は、葉のざわめきを運び、髪にいたずらをする。


なぜこの国の多くの者は、こうも無防備なんだ……。

まともに警戒をするのは、あの中年の男ぐらい……。


心の豊かな連中の考えは、理解し難い。


そんな事を考えながら、与えられた自室へ向かっていた時、後ろから声をかけられた。


「ちょっと、よろしいですかな? ユェ様」


うわ、最悪だ……。足が止まるよりも早く、直感めいたものが、そう呟いた。

振り向いた先には、中年の男。
鎧はまとわず、貴族のような、わずかに装飾の入った衣服。


「はい、なんでしょう?」

なんの話があると言うのか。


「いえ、自己紹介がまだでしたからな。わたくしは、ノエル・ド・マーティン。姫をお救い頂き、ありがとうございます……」


口にされたのは礼の言葉。片腕を腹部へ寄せ、上半身を深々と下げる、中年の男。


「シヴェルに伺いましたが、幼くして旅をしているとは、ただならぬ苦労と、理由があるのでしょう。これまでの無礼、誠に申し訳ない」


「いえ、警戒されるのは当然。それゆえ、気に止めてなどいません」


それが当たり前だ。他の奴らが、お人好しすぎるだけだ。

常識的な奴が居てくれて、なぜだかほっとする。


そんな事を胸のうちで思いながら、ノエルに頭を下げ、足を自室へと向け、再び歩き出した。
< 62 / 62 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

【雑記】執事の手帳【ネタ】
伝達者/著

総文字数/2,593

その他9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
四天王の座を手にした 伝達者こと 執事の凛 はたして彼の 真の目的とは……!?
野良夜行
伝達者/著

総文字数/6,389

ファンタジー13ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ある月夜 彼は目を開けると 見知らぬ少女に 看病されていた 周りを見渡すと 妖怪集団「野良夜行」 と名乗る 見知らぬ男女 何が起こったのか 思い出そうにも 何も思い出せない 状況も 自分の名前さえも 記憶喪失に なってしまった 彼と 妖怪を名乗る 野良夜行 そんな彼らの 小さな 友情物語
【兄と義妹】時空を切り出す光化学
伝達者/著

総文字数/4,152

その他6ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
写真 それは 一定の空間を移す 光化学 デジタルでは 写しとれない 思い出の空間

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop