水島くん、好きな人はいますか。


「俺はなにもしちょらん。でも、ありがとう」

「……水島くんがお礼を言うのは変だと思う」

「誰かを想って離れようなんて、相手がよっぽど大切じゃなきゃできんじゃろ。だけん、ありがとう」

「……」

「いろいろ勉強になったけん」


眉を下げて笑った水島くんは再び歩き出す。


「なにも言われんまま、詳しいことも知らんまま、急に離れられる側って、悲しいんじゃな」

「え。ごっ……ごめんなさい! なにも詳しいことを言わず離れようとしたわたしでごめんなさいっ」


吹き出した水島くんは背を丸めて笑い続ける。そこはもう玄関で、瞬が解せないという風に口をはさむ。


「京は万代のなにがそんなにツボなんだ」

「早とちりじゃけど、いつも必死で大真面目なところ」

「存在がギャグってことか」


瞬って本当にデリカシーに欠けてると思う。


「天の邪鬼すぎん? 瞬だってわかっちょるくせにな」


対照的に水島くんは心配りが過ぎるんじゃないかと思う。


でも笑顔を向けられると、なんだかどうでもよくなっちゃうなぁ……。


「お大事に、万代」

「……水島くんも。足、お大事に」


節々に垣間見える思い遣りが、ときめきを連れてくる。



「お見舞いありがとう。……またね」


控えめに手を振ると瞬は嘲笑うように舌を出し、みくるちゃんは笑顔で手を振り返してくれて、水島くんはおだやかに微笑んでくれた。


ドアが閉まっても立ち尽くすわたしは3人のそれぞれ違う表情を思い返し、頬をほころばせた。



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