水島くん、好きな人はいますか。

わたしはぽりぽりと首筋を掻く瞬の隣で、視線をあちこちに泳がせていた。


するといきなり頭を横に押し退けられ、邪魔だと言わんばかりの行動をした瞬に文字通り頭を抱えたくなる。


「じゃあな。ちゃんと部活見学行けよ」

「……ハイ」


自分で忠告しておいて目を丸くさせた瞬は、「素直でよろしい」と笑った。


歩き出したシノザキくんが顔だけを振り返らせて微笑んでこなければ、素直に返事はしなかったけれど。そんなことに気付かない瞬は彼と並んで廊下の先へ消えていく。


やっぱり話しかけてこない……のは、いいんだ、べつに。


「今の人なんて言うんだっけ。京より背、高いよね」

「シノザキくんだよ」

「あー。はいはい。そんな名前だった」


瞬たちが歩いて行った方向を見ていたみくるちゃんが、


「かっこいいけど、なんかちょっと怖いよね」


と言うので同じく苦笑を返した。


「なー。視力検査、時間押しちょるから教室でやるって」

「えーっ! せっかく待ってたのに! 京が告白なんかされるからぁー」

「そういうんじゃないって俺はあと何回言えばよか……」


脱力する水島くんに、けらけら笑うみくるちゃん。


こんなときに呼び出した子もすごいけど、律儀に応じる水島くんもすごいというか、慣れている。
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