水島くん、好きな人はいますか。

驚いてなかった。ごまかそうとする気もなかったように思う。もしかしたらお兄さんがなにか話したのかも、って推し量ったのかもしれない。


水島くんはひとつ、瞬きをして。柔和な顔へ静かに微笑みを漂わせた。それでいて自前の黒みがかかった瞳に侘しさ含ませ、短く、『うん』と答えたんだ。


どんな子? かわいい? 美人? 名前は?


どれも訊かずに『やっぱり』って笑えたのは、とっくの前に見て聞いて知っていたから。水島くんがわたしに触れたり、笑顔を向けてくれたりすることに、特別な意味はないって知っていたから。


だから今こんなにも涙が溢れるのは、失恋した悲しさじゃないの。


「遠くに行かないで……」


瞬も、水島くんも。いつだって会える距離に。隣の家に。同じ教室に。大人になるまでいてほしかったよ。


ふたり同時になんて、わたし他に、どんな顔をすればいいの。



「――行くから、俺は」


1歩下がった瞬は、するりとわたしが掴んでいた手からも逃れてしまう。


「ずっと親のこと避けてたし、今度は親父とふたりになるけど、俺は新しい場所でやってくって、決めたんだよ」

「……わかってるよ」

「ならもう泣くんじゃねえよ。俺までどんな顔すりゃいいか、わかんなくなるだろ」

「じゃあ離さないで」

「……」

「繋いでてよ、瞬……」



神様どうして。


さよならはいつも、繋いだ手を離すようにできているの。



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