水島くん、好きな人はいますか。

瞬は、家事ひとつできないおじさんを支えることにしたんだって、わかっているのに。


「おっ前なあ……今からそんなんで、当日どうすんだよ」


めそめそ泣き始めたわたしに見向いた瞬がだれる。


相手にするのも嫌なくせに、無視しない瞬の優しさに涙腺はさらにゆるむ。


「俺はお前を引っ越しの手伝い要員に入れてやってんだぞ。常に役立つ気でいろ」


瞬さま直々に指名してくださるとは身に余る光栄です。


嫌味が思い浮かんでも、いつものように言えなかった。


だから瞬はため息をついたんだと思う。


「お前がそんなんじゃ、話さないほうが賢明かもな」


……誰の話をしてるの。

自分のこと? 水島くんのこと? それとも、両方?


瞬は転校することを、まだわたしにしか話していない。水島くんは誰にも話す気がない。きっと先生しか知らなくて、口止めもしているんだろう。


ひどい。そう感じるのは、寂しいから。


笑って見送ることができるなら、とっくにしてる。


頑張ってね、って。応援してるね、って。遊びに行くね、って。聞き飽きてもらえるまで言ってるよ。
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