水島くん、好きな人はいますか。

決意と覚悟を持った水島くんを、きれいだと思った。


初めて見かけたときよりも、初めてふたりで話したときよりもずっときれいで、少しだけ悔しい。


水島くんにこんな顔をさせるのは、綾ちゃんだけ。彼女を救えるのは、水島くんだけ。


敵わないなあ……。


そう思いたくて話を聞いたわけじゃないのにね。


……不思議。もうそろそろふたりの時間はおしまいでも、無理に会話を続けようと思えない。


水島くんが視線をよこして微笑んでくれただけで、充分。


「ありがとう」


そう言ったのは水島くんだった。


「え……っと、なにが?」


不意を突かれたわたしは目を白黒させ、水島くんはくすりと忍び笑う。


「俺はいつも、誰かに支えられちょる。そう教えてくれたんは、万代じゃろ」

「……」

「だけん、俺は忘れんから。絶対に万代のこと、忘れん」


じわりと涙が滲んで、とっさに目を逸らした。


――泣かない。今日だけは、このキャンプ中だけは、絶対に泣かないって決めたんだ。


「わたしもだよ……」


涙をこらえ、忘れられるはずのない人に顔を向ける。


「水島くんのことも、水島くんの夢も。わたし絶対、絶対に忘れないから」

「ん……ありがとう、万代」


照れくさそうに微笑んだ水島くん。


思い返せばわたしはけっこう、『ありがとう』って言われてるなあ……。
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