水島くん、好きな人はいますか。
ぐいっと涙を拭い、助手席から距離をとる。水島くんも鼻先に触れ、深く息を吐いていた。
「じゃあ、」と水島くんは視線をよこす。
「いつか、また!」
大きく開けた口から白い歯が覗く、天真爛漫な印象しか与えない、くしゃっとした水島くん最高の笑顔。わたしまでつられてしまうその笑顔が、いちばん大好きだった。
「またねっ!」
ゆっくりと走り出した車に手を振る。助手席が見えなくなるまで水島くんもわたしも笑顔だった。
「行っちゃった、ね」
思いのほか離れた場所に立っていた瞬は、「そうだな」とオレンジ色に染まる駐車場の出口を眺めた。
わたしは瞬に近づき、バッグから取り出した分厚いA4のファイルを差し出す。鮮やかなグリーンをした半透明のそれは、瞬のために作ったレシピ。お母さんにパソコンを借りてレシピを打ち込み、印刷してファイルにまとめた。
「瞬が、うちのご飯で好きなやつ。半分は簡単なものでまとめたから、瞬でも作れるよ」
「……自炊しろってか」
「いらないならいいけど」
「誰がいらねえっつった。よこせ」
手荒にファイルを奪い取られ、なにもなくなった手をぎゅっと握り締めた。
――ばしっ、と。ファイルで叩かれた頭をさする。
「どーも」
ぶっきらぼうな瞬の耳に付けられた、真新しい、水島くんへあげたものと似たピアスがきらりと光る。
「京のやつ、全く気付かなかったな」
視線の先を感じ取った瞬は、わたしのバッグを見つめた。
ところどころに白いレースがあしらわれたライトブラウンのバッグには、シルバーピアスが居心地悪そうにぽつんと存在していた。これもお母さんのパソコンで店を探して、瞬と一緒に買いに行ったもの。