水島くん、好きな人はいますか。


「そんな奴を俺が手放すと思うか」


大抵しかめっ面の瞬がこのときだけは、にやりと笑う。


どうだ、わかったか。と感じたその笑みに、また涙が滲んでしまった。


「思わない……」

「さすが万代」


ねえ瞬。それって、『さすが万代』って、実は最高の褒め言葉かもしれない。


よくわかってんじゃねえかって言われてるみたいで、そうでしょう?って、こっそり得意げになる自分がいるんだ。



わたしと瞬はどうしたって対等にはなれないけど、一緒にいれば同じだけ互いを思い遣って、気持ちを拾い合ってこれたと思う。だから11年一緒にいられたんだと思う。


ずっと前からそれだけで特別って……大事な幼なじみだってわかってたのに、わたし、バカだったね。


瞬が欲しい言葉をひとつも言ってあげられなかったね。


こんなにも必要とされていたのに、いつまで経っても自信が持てなくて、ごめんね。


だからやっぱりわたし、少しずつ変わりたい。



「……おい。万代?」


もらした吐息も、汗ばむ体も熱くてたまらない。そんな中でわたしは、「大丈夫」とつぶやいて瞬に微笑んだ。


「あのね、わたし……幼なじみが瞬だってことが、いちばんの自慢なの」


瞬のように堂々とはしていられないけど、手放したくないものを掴む力くらいは持ってみせるから。


そのときはどうか、握り返してくれると嬉しいよ。



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