水島くん、好きな人はいますか。


なぜか部屋に来たみくるちゃんはテーブルに角盆を置く。そこには水島くんが卵粥を作って持ってきてくれたものと同じ土鍋がある。


昼間と違うのは、もうひとつ土鍋があることと、うどんに見覚えがあることだった。


「あの、これ、もしかして……」

「あ、わかる? 『瞬さま特製うどん』って自分で言ってた。アホだよね。瞬の家で作ったの持ってきたんだけど、万代ってうどん好きでしょ? だから作って持っていこーって、みんなで」

「みんな?」

「うん。京は瞬の家で食べてるよ。あたしは万代とっ! のびる前に食べよー」


れんげと箸を手渡され、みくるちゃんは「いただきます」と先に食べ始める。


まさかこのために帰らずにいたのかな。


あの状況から……? 夕飯を作ってくれるためだけに?


いくらなんでもそれはありえないと思う。わたしがギブアップして寝込んでいるあいだに、なにかはあったと思う。


なによりもまずわたしは、うどん食べてる場合じゃない。


けれどせっかく作ってくれたものを残すわけにもいかず、食べ終わるまで口を閉じていた。



「瞬と万代が仲直りしてくれて、よかった」


食べ終えたらまっ先に謝ろうと決めていた心が、揺らぐ。


「ごちそーさまっ」


と言ったみくるちゃんは、惑うわたしに笑みを向ける。


「あれってさ、瞬が描いたんだよね」


彼女が指差したのは、壁に落書きされたわたしの似顔絵だった。
< 92 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop