地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
一瞬、なんのことだっけ?となったが、すぐに思い出した。

去年、まだ高3になって、1ヵ月経ったくらいの頃。

松沢学園の理事長が、校内で一斉にテストを行い、成績トップだった杏と俺をクイズ大会に参加させたんだよな。

んで、俺らはその大会で見事優勝。

学園内でも、盛大にお祝いされたんだっけ?

去年は、それから後のことがどうも忙しかったから、テレビに出たこととかも忘れていた。


「はい」

男たちに向かって頷いて見せた。


「それで、ペアのもうひとりは今どこにいる?」

は? 杏のことか?

「ここの大学に通っていますよ」

さらりと返す。

すると……。

「本当か!? 彼女もここにいるんだ! あの美人が!!」

――ピクッ

ひげを生やした男の言葉に、眉毛が一瞬吊り上った。

杏が絶世の美人なのは認めるが、いや天女って言ったって大丈夫だと思うが……そのニヤけたヤツらの顔が許せない。

アイツは俺のもんだ。


少しだけ怒りがわき起こるが、理性で抑えて我慢する。


だが。

俺はうすうす話が読めてきたような感じがしていた。


「じゃあ、話は早い。俺たちは、今度7月に4時間のスペシャル拡大版をやることになっているんだが……君たちペアにぜひとも参加してほしいんだよ」


やっぱり……俺の予想的中。

男の話しに、内心ため息をつく。

なぜなら……。


俺はまだマシだとしても、アイツ……杏樹は、絶対に断固拒否すると思うからだ。

高2の時のことがトラウマで、未だに芸能人に会うようなパーティーに行きたがらない。

もともと、華やかな場所が苦手だしな。

そんなんで、いきなり人気番組の拡大版に出ろなんて、さすがに言えない。

そんなことを言ったら、絶対に泣き出すだろうし。

だから、俺の出した答えは……


「せっかくのありがたいお話ですが、お断りします」


俺ともども、話を蹴ることだった。
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