小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


その作業が終わる頃、千津ちゃんは穏やかな口調で言った。


「早いものねぇ。もう1年なんて」


その視線は、アイチの遺影を優しく見つめている。


「そうだね」


本当はもっと何か気の利いた言葉を言うつもりだったけれど、それはびっくりするほど、出て来なかった。


情けない。


1年経っても世間話すらできないなんて。


千津ちゃんはじっとケータイを見つめていたあたしの背中をぽんっと押した。


「みんなにも日にち、教えてあげてちょうだいね」


嫌だ、とは言えなかった。


本当は千津ちゃんから伝えてもらった方がいい。


けれど、もうそんなことで甘えていちゃいけない。


「伝えとくね」


うまく笑えていたかはわからない。


けれど、笑っていなきゃと言う思いだけは強くあった。


「お願いね」


「うん」


千津ちゃんのお願いに返事をしてから、アイチの部屋を出た。



< 11 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop