【BL】ひらゝ舞ふ
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鬱蒼と茂る青葉の中、其の家は佇んでいた。

まだ初夏である。

暖かな陽射しに透き通る肌を袖ごと無造作に投げ出し、君が、其の小窓に寄り掛かり、詩を其の五月の風と高音で唄う。

肩から零れる髪を耳に掛ける仕草。

そこに確かに君を見た。





桜色の唇からは正しい撥音の独逸文学が流れ、俺は小窓に投げ入れたハンケチの中の木の実類が、其の外国語を読み耽る君の唇がちらつかせる舌や皓歯により噛み砕かれる様を想像した。

酸味に眉根を寄せているのではなかろうか。

指で舌で転がして遊んでいるのではなかろうか。

そんな下らないことが一日を充足感で満たした。
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