【BL】ひらゝ舞ふ
9
兼松は元下男を探りに派遣した。

兼松に届いた便りは吉報であった。八尋の生き写しだの、北王子家の恩恵を授かっただの、兎にも角にも十八年間音沙汰が無かった祖父が連絡をするには申し分ない理由になった。

兼松は改めて八尋の息子の名が「林太郎」と識った。

林太郎は重傷で奉公先を追い出され、現在は経営者である元下男の棲まいで様子を見ることになった。
其れは実質、保護で或るのだが。


林太郎は傷めた体が回復するまでの暇潰しにと学を教え込ませれば、水を得た魚のように才気に溢れ、商いで身につけた自然な気配りは厭味たらしさが無くさながら紳士である。

そして林太郎は八尋に似た天真爛漫さも継いでいた。
療養だと云っては屋敷内の窓を拭いて回り、持ち主が一ヶ月かかった屋敷内の把握を僅か五日でやってのける。
更に一週間経った頃には使用人全ての顔と名前と役割を把握し、全員と言葉を交わせるまでになっていた。

夜な夜な外を出歩き、新しい土地の把握まで始めていた。

実質、商家を肥やしたのは林太郎の力あってこそで或った、しかしその豊か過ぎる鬼才は脅威になる。
林太郎は成長するにつれ覇者の頭角を現し、自然と主人達に支配される側であることをしらしめたのだ。

十八まで林太郎があのような商家に居られたこと自体が奇跡的だった。
何れは追い出されていた運命だったろう、私刑は起きるべくして起きた事態である。



かつて八尋が放っていた威信を林太郎は秘めていた。
< 9 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop